福岡高等裁判所宮崎支部 昭和29年(う)290号 判決
原判決は、本件公訴事実第二即ち、「被告人が昭和二八年一月二五日頃、鹿児島県日置郡伊作町田尻字今別府六、二七四番一山林において、黒川与助所有の松立木四〇本(時価約一〇、〇〇〇円相当)を窃取した。」との点につき、証拠によりその事実を認め得るものとしながら、被告人の右所為は旧自作農創設特別措置法(以下、措置法という。)第四〇条にいわゆる土地の開発のためにする行為であるから、法令による行為として違法性を阻却するとの理由で、無罪の言渡をなしているのである。
按ずるに、本件山林は、農地法の施行前、措置法第三〇条第一項第一号の規定に基き買収されたものであるから、買収の効果について措置法の規定によるべきことは、農地法施行法第二条第二項の規定するところであるが、措置法第四〇条には、「第三〇条の規定により政府が買収した土地又は同条第一項第二号に規定する土地の開発については、他の法令中命令で定める制限又は禁止の規定は、これを適用しない。」と定めてあり、同条に基く命令即ち、同法施行令第二八条第九号には、森林法第二六条及び第三二条のみが掲げられてあつて、本件土地の買収売渡当時における森林法(旧法)によれば、前者は保安林において木竹の伐採、開墾等の行為をなすにつき地方長官の許可を要するものとなした規定で、後者は主務大臣が国土保安上必要と認めた場合、保安林以外の森林につき開墾の制限又は禁止をなし得る旨を定めた規定である。従つて、措置法第四〇条が、これらの規定の適用を排除することから、同条が、土地開発のため他人所有の立木の伐採を許容したものと解し得ないことは余りにも明白である。しかして、右措置法第四〇条の規定は、同条に定める土地の開発に必要な限度において、他の法令の規定の適用を排除する趣旨に出ずるものであるから、同条及びこれに基く命令の規定は、いわゆる例示的規定ではなく、制限的規定であるといわねばならない。従つて、右の規定から推して、政府が、自作農創設のため、私有林の地盤のみを買収してこれを売渡した場合、右土地の開発のため必要であるからといつて、土地の買受人に、地上立木を自由に伐採することを許容したものと解することはできないのであつて、かような場合における地上物件の収去については、同法第三三条等に特に規定を設けてあるのである。されば、所定の収去方法を促すことをしないで、他人所有の立木を伐採取得した被告人の本件所為を以て、同法第四〇条にいわゆる土地の開発のためにする行為として、違法性を阻却するものとなす原判決は、右法条の解釈適用を誤つたものというの外なく、その誤が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。
(裁判長裁判官 山下辰夫 裁判官 二見虎雄 裁判官 長友文士)